仙台高等裁判所 昭和41年(ネ)124号 判決 1966年11月30日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は別紙不動産目録記載の不動産につき昭和三九年一月二七日山形地方法務局米沢支局受付第五七九号をもつてなした根抵当権設定登記の抹消手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張および訴訟関係は、
被控訴代理人において、
「(一)、本件根抵当権は被控訴人ほか一二名の大口債権者の債権を担保するために設定したものであり、当時の大口債権者の氏名、各債権額、その後の弁済による残債権額は別表のとおりである。(二)、もつとも右大口債権者の債権は被控訴人において譲渡を受けているものではない。(三)、次の控訴人の主張事実に対しては、(二)の弁済供託の点は認めるが、その余の点は被控訴人の主張に反する限り争う。」と訂正補充し、
控訴代理人において、
「本件根抵当権の被担保債権は、本件根抵当権設定契約が締結された昭和三九年一月二五日以降本件訴状による根抵当権設定契約解除の意思表示が被控訴人に到達したまでの間において、控訴人と被控訴人の直接の織物ならびに織物加工品の商取引および手形取引契約により生じた被控訴人の債権のみである。被控訴人主張の別表の債権者の債権は、本件根抵当権設定当時既に存したものであるのみでなく、表控訴人以外の同表記載の債権者の債権はいずれも被担保債権の中には含まれない。(二)、控訴人は被控訴人の残存債権額二六二万八、八四五円に対しては昭和四一年一一月一日山形地方法務局米沢支局受付同年度金第一六八号をもつて金二九二万五三一五円を弁済供託したから、いずれにしても本件根抵当権の被担保権は消滅し、本件根抵当権も消滅した。(三)、被控訴人主張の右(二)の事実は認める。」と訂正補充した。
証拠(省略)
ほかは原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
理由
控訴人が同人所有の別紙不動産目録記載の不動産に対し、昭和三九年一月二七日山形地方法務局米沢支局受付第五七九号をもつて、債権者根抵当権設定者控訴人、根抵当権被控訴人、債権極度額金一、五〇〇万円とする抵当権設定登記手続をしたことは当事者間に争いがない。
しかして、成立に争いない甲第三号証の一、第四号証、乙第二号証ないし第五号証、原審証人高橋栄一、鈴木忠喜、鈴木忠蔵、金子功一郎、小林藤吉、渋谷誠助、舟山宮夫、大泉久蔵、小島清蔵の各証言、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果(一、二回)を総合すると、控訴人は多年織物の買継商を営んでいたものであるが(この点は当事者間に争いがない)昭和三九年一月二五日に落すべき控訴人の支払手形の支払が困難となつたため、控訴人は同月二四日自宅において大口債権者高橋吉三郎の長男栄一、鈴木忠喜、被控訴人代表者舟山甚作らと善後策を協議したが結局良策がなく、二五日には遂に多額の不渡手形を出したこと、そこで、同日午後に大口債権者約一〇名と、さらにその二日後の二七日には米沢市内の織物業者、織物加工業者等控訴人に対する取引上の債権者のほぼ全員と、いずれも自宅において善後策を協議したこと、以上の会合において、当初控訴人は廃業して財産を整理し負債の支払にあてることを表明したのに対し、被控訴人代表者舟山甚作ら債権者は控訴人には相当の不動産があるのだから廃業することなく、総債権者のためにこれに根抵当権を設定し、しばし弁済の猶予を得て、再建を計つた方がよいのではないかと提案したところ、控訴人は即座にこれを了承し、総債権者の債権保全と控訴人の再建のため、高利貸しの介入、控訴人の自由処分による資産の散逸を防ぐ目的をあわせ、別表記載の債権者の債権を担保するため、別紙不動産目録記載の不動産に対し、右債権合計額を金一、五〇〇万円と見積り、極度額を金一、五〇〇万円とし、被控訴人を別表記載の債権者の代表者として、同人を抵当権者とする根抵当権を設定することを承諾し、その結果本件根抵当権設定登記がなされたこと、以上の経過により小口債権者に対しては完済したが、別表記載の債権者は弁済を猶予し未整理のままとなつたこと(未整理債権者およびその債権額が別表のとおりであることは控訴人が明らかに争わないところである)が認められる。以上の認定の趣旨に反する原審証人高橋良子、高橋弘、高橋修、佐藤澄夫の各証言、原審ならびに当審における控訴人本人尋問の結果は採用できず、他に以上の認定を左右する証拠はない。
以上認定事実によれば、本件根抵当権は、被控訴人の別表記載の債権を担保するだけでなく、別表記載の他の債権者の債権を担保する趣旨で設定されたものであることが明かであるから、被控訴人が別表記載の他の債権者のためにその債権の譲渡を受けて担保権を実行することを予告して、将来譲り受けることあるべき債権を予想して根抵当権を設定したものと解するのが相当である。
そうすると、以上の事実からすれば本件根抵当権設定が控訴代理人主張のような、詐欺によるものでないことは明らかであるから控訴代理人の詐欺による取消しの主張は許されない。また本件根抵当権は既存債権のみの担保しているから、無効であるとの控訴代理人の主張も理由がない。
また前掲甲第六号証の一、乙第一号証によれば、被担保債権について「織物並びに織物加工品の商取引及び手形取引契約」から生ずる債権担保である旨をうたつているのであるから、控訴代理人の基本契約の不存在を理由とする無効の主張も採用できない。
次に、控訴代理人は被控訴人の債権は弁済供託により消滅したから本件根抵当権は消滅した旨主張するから案ずるに、控訴人が昭和四一年一一月一日被控訴人に対する債務金二六〇万八八四五円に対し金二九二万五三一五円を弁済供託したことは当事者間に争いがないが、本件根抵当権が別表記載の総債権者のために設定したものであることは前記のとおりであつてみれば、別表記載の他の債権者に対する債務を完済したことの主張立証がない本件においては、被控訴人の被担保債権が消滅したことの一事をもつて、本件根抵当権の消滅または本件根抵当権の解除を控訴人から主張することは許されないものと解するのが相当である。しからば控訴代理人の右主張も採用できない。
以上のとおりであるから控訴人の請求は理由ないものとして排斥すべく、これと同旨の原判決は結局相当であるので、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を運用し、主文のとおり判決する。
別紙
<省略>
別紙 不動産目録
一、山形県米沢市立町二五九番、宅地、三六坪
一、同所二六〇番の一、 宅地 一八坪
一、同所四二七三番 宅地、八五坪五合
一、同所四二七三番の一 宅地、二坪九合七勺
一、同所四二七四番、 宅地、一五四坪
一、同所四二七四番の一、 宅地、二坪九合七勺
一、同所四二七五番の一、 宅地、三坪二合四勺
一、同所四二七三番、四二七四番、家屋番号第一六六番
木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平屋建居宅
建坪 五三坪
土蔵造亜鉛メツキ鋼板ぶき二階建店舗
建坪 一八坪 外二階 一五坪
土蔵造亜鉛メツキ鋼板ぶき二階建倉庫
建坪 一二坪 外二階 一二坪
木造亜鉛メツキ鋼板ぶき二階建物置
建坪 八坪 外二階 八坪
木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建店舗
建坪 八坪
木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平屋納屋
建坪 四坪